静かな部屋。音のない空間。誰にも邪魔されない場所。

もちろん、そうした環境で勉強することも大切です。

でも私は、もう一つ大切な力があると思っています。

周りが多少ざわざわしていても、自分がやるべきことにスッと入り込める力。

いわば、自分で「集中のスイッチ」を入れる力です。

夢中になると、周りの音が気にならなくなる

好きな漫画を読んでいる時や、テレビに夢中になっている時。

家族から声を掛けられても、全く気づかなかった。

そんな経験はないでしょうか。

そろばんでも、同じような瞬間があります。

「この問題を解きたい」

「あと少しで全部できる」

「さっきより速く解きたい」

そうやって目の前の問題に夢中になっていくと、少しずつ周囲の音が気にならなくなり、そろばんだけに意識が向いていきます。

いわゆる「ゾーンに入る」という状態です。

私は以前、テレビ取材を受けた時にもお話ししたことがあるのですが、静かな環境だから集中できるだけではなく、周囲に音があっても自分がやるべきことに入り込めることも、大切な集中力ではないかと考えています。

あえて「静かすぎる教室」にしない

チャイルドスクールは、常にシーンと静まり返っている教室ではありません。

子どもたちの声が聞こえることもありますし、和気あいあいとした雰囲気も大切にしています。

もちろん、おしゃべりばかりしていていいという意味ではありません。

楽しい雰囲気の中でも、やる時になったら気持ちを切り替える。

そして、そろばんを始めたら周りの声が気にならないくらい、目の前の問題に入り込んでいく。

ここがポイント
環境に集中させてもらうのではなく、自分で「集中する状態」をつくれるようになる。そんな力を育てたいと考えています。

数字を見る、判断する、珠を動かす

そろばんでは、問題に書かれた数字を見て、その数字を瞬時に読み取り、珠の動きへ変えていきます。

簡単に言えば、数字を素早くスキャンして、それをそろばんへ入力していくような作業です。

数字を見る。

判断する。

珠を動かす。

答えを書く。

そして、すぐに次の問題へ進む。

特に時間を計って練習する時には、限られた時間の中で、この作業を次々と繰り返していきます。

途中で別のことを考えてしまえば、数字を読み間違えたり、珠を入れ間違えたりします。

そのため自然と、「今、この問題に集中する」という切り替えが必要になります。

短い時間でも、一気に目の前のことへ集中する。

この繰り返しが、「集中のスイッチ」を入れる練習につながっていくのではないかと思います。

集中が切れたら、一度スイッチをOFFにする

とはいえ、子どもですから、ずっと集中し続けられるわけではありません。

明らかに集中が切れている時に、「もっとやりなさい」「集中しなさい」と言い続けても、なかなか良い練習にはなりません。

そんな時は、一度ブレイクタイムを入れます。

「ちょっと休憩しようか。」

「5分後に、もう一回時間を計ってみよう。」

「少しリフレッシュして、もう一回やってみよう。」

一度頭を切り替えてから、もう一度そろばんへ向かいます。

集中力というと、「どれだけ長い時間集中できるか」に目が向きがちです。

でも私は、それだけではないと思っています。

一度切れた集中を、もう一度自分でONにできること。

これも、とても大切な力ではないでしょうか。

「よし、やるぞ」と切り替えられる力

時間を計って問題を解く時、子どもたちは自然と気持ちを切り替えます。

「よーい、スタート。」

その瞬間、それまで話をしていた子が一気に問題へ向かうことがあります。

この「遊ぶ時」と「集中する時」を切り替える経験を何度も繰り返していくことも、そろばんの面白いところだと思っています。

こうした切り替えが習慣になれば、そろばんだけではなく、学校の勉強や何かに取り組む時にも、集中する状態へ入りやすくなる可能性があります。

私自身も、今でも感じることがあります

私自身も子どもの頃、そろばんを習っていました。

現在、そろばんの問題を作ったり、プログラムを開発したりすることがありますが、一度作業に入り込むと、気がつけば4時間、5時間と集中していることがあります。

もちろん、それがすべてそろばんのおかげだとは言い切れません。

ただ、子どもの頃から時間を計り、短い時間で一気に問題へ向かう経験を何度も繰り返してきたことは、今の自分にも生きているように感じています。

集中力は、「ずっと静かにしていられる力」だけではありません。

必要な時に自分でスイッチをONにして、目の前のことへ入り込む。

疲れたら一度OFFにして、少し休んで、もう一度ONにする。

そんな「集中の切り替え」ができる力を、そろばんを通して少しずつ育てていけたらと思っています。